最近の賃貸事情

最近の賃貸事情-Vol50 インターネット設備

今回はインターネット設備についてお話します。インターネットが普及し始めた頃は電話回線を利用していましたが、やり取りするデータ量が増加したためインターネット専用の回線として光ファイバーが登場しました。今はほとんどの世帯に光ファイバーが引かれ、通信会社に連絡すれば簡単な工事で利用できるようになりました。マンションタイプは光ファイバーを共有するためスピードは若干落ちますが金額は戸建タイプより安価で導入できます。

そしてインターネットの使用料を貸主が負担する光インターネットの使い放題プランが登場しました。インターネット開通工事も不要で、パスワードを告知しておけば線を繋ぐだけですぐにインターネットを無料で利用できますので入居者にとってはとても魅力があります。賃貸住宅新聞社の人気設備ランキングでは単身者向け部門で4年連続の1位が「インターネット無料」(別表1)となっています。

オーナー様にとっての導入メリットは物件の競争力が増すこと、居住期間も長くなることで入居稼働率のアップが図れ、また賃料値下げの防止効果も期待できます。1戸当たりの使用料は通常のマンションタイプ料金よりも安くなります。部屋毎に異なった通信会社が入る建物とは異なり、全世帯を同じ通信会社が加入するので1戸当たりの料金が割安で契約できるのです。戸数によっても料金は大幅に変化します。(別表2参照)具体的に検討する場合、金額だけでなくその会社の実績も加味したほうが良いでしょう。また、通信会社によっては機材のリース契約が可能で、クレジット払いの場合は完済後の毎月費用は2/3~半額になります。

次に登場したのがWiFi対応というもので、光ファイバーを有線だけでなく無線での利用も可能なタイプです。パソコンに限らず、スマートフォン(携帯電話)、iPodなどのタブレット等、WiFi対応の機器であればすべて利用可能です。増え続けているスマートフォンの利用者、パソコンを持たない若者層もターゲットにすることが出来ます。最近ではカフェやショップ、ほとんどの場所でWiFi対応がなされています。利用は室内だけに留まらず共用部などでも可能で、マンションのエントランスを入るとWiFiが使用できるようにすることも可能です。有線を導入している建物でもWiFi設備を追加できる会社もあります。

パソコンや携帯電話だけでなく、テレビ、デジカメ、ゲーム機などもインターネットに対応した機種が多く発売されています。今後、家電製品など様々なものがインターネット通信に対応していくと予想されます。物件に見合ったインターネット設備を再検討されてはいかがでしょうか。

最近の賃貸事情-Vol49 賃貸マンションの防災対策

地震は発生場所と時期、規模と被害がある程度予測されていますが、未だ特定することはできません。地震によって建物が被害を被った場合、火災保険では地震による倒壊や火災の損害は補償されないため地震保険を付帯することが望ましいです。入居者の被害も状況によっては賃貸人や所有者に責任が及ぶこともありますので、耐震基準をクリアする必要もあります。また、きちんとした防災対策は空室対策にも有効です。

現在の耐震基準は1978年に発生した宮城県沖地震の経験を踏まえて1981年に新耐震基準として制定され、震度5強程度の中規模地震に対してほとんど損傷がなく、震度7程度の大規模地震に対しては人命にかかわるような被害が生じないことを目安としています。

旧耐震基準の建物は、現行基準に照らし合わせて耐震性を調べることが可能で、その費用も助成金の対象になる場合もあります。「耐震診断実施済」「耐震補強済」と告知することで募集時の反響が増える効果があります。

別表は東京都が発表した震災後のライフラインへの影響と復旧までの日数です。34.8%が断水し都内全てが復旧するのに約1ヶ月かかる試算です。マンションの場合は本管が復旧しても汲み上げポンプが故障して水が出ないこともあります。高架水槽のひび割れから漏水した二次被害も報告されています。

被害を最小限にするため、バルコニーの避難ハッチや避難経路、パーテーション付近に障害物を置かないようにする。また、消火器や消火栓の状態と使い方を普段から確認しておき、水の供給ルートや非常用発電機の使用方法、停電時のオートロック使用法等も確認しておく必要があります。

エレベーターには安全装置がついており、大きな揺れを感知すると自動で停止するようになっています。しかし全ての停止情報がエレベーター会社に自動的に届くわけではありません。機種や契約内容によっては発見した人が連絡しなければなりません。また、エレベーターの復旧には優先順位があるため業者が来るまでに数日かかることもあります。2009年9月の建築基準法改正により、震災時のエレベーターの安全対策が強化され、戸開走行保護装置の設置義務(ブレーキの二重化、エレベーターを静止する安全回路を別回路にする)、及び予備電源を設けた地震時管制運転装置(かごを最寄りの階に停止させる)が設置義務になりました。

玄関枠が変形して玄関扉が開閉不能になることもあります。災害時は特に一人暮らしの高齢者に対して優先的に声を掛け安否確認も行う必要があります。

最後に災害時の法律問題Q&Aを掲載しましたので参考にしてください。

災害時の法律問題Q&A

Q1:震災により賃貸住宅の入居者が死亡した場合、賃貸人の責任は?
A1:阪神・淡路大震災により賃貸マンションの1階部分が倒壊し賃借人が死亡した事故について、自然損害の割合を斟酌するも5割の限度で賃貸人・所有者の土地工作物責任を認めた判例があります。工作物責任はその工作物に瑕疵があるかが問題となるわけですが、震度5程度の地震に耐えうる安全性を備えることと過去の判例では示されています。

Q2:地震で家具が倒れて床が破損した場合、修繕費用を入居者に請求できるのか?
A2:不可抗力による場合は借主に責任がありませんので修繕費用を請求することはできませんが、借主の家具の設置の仕方に問題があった場合は借主に修繕費用を請求することができます。具体的には他の部屋で家具がどの程度倒壊しているかが目安です。

最近の賃貸事情-Vol48 東京タワーから東京スカイツリーへ

今年5月に地上デジタル放送の送信所が東京タワーから東京スカイツリーに移転する予定です。当初は今年1月に移転の予定でしたが、サンプル調査の結果で約16万世帯にアンテナ調整など相当数の障害発生が予測されたため、急遽延期となっていました。そこで今年に入り連日試験放送を行い受信相談のコールセンターを設け対策に努めていました。

地上デジタル放送化は国策として総務省が勧めてきましたが、今回のスカイツリー移転は民間の計画です。首都圏の高層ビルが増加し今後はもっと高い超高層建造物が建つことが予測されることから、その電波障害の解消を目的に1997年頃から計画がなされていました。

東京スカイツリーに移転することで送信アンテナの高さが約2倍となることで建造物の陰、山、樹木、地形などによる電波障害の範囲が狭くなり、多くの地域で受信状況が改善されると考えられています。また、携帯端末向けのデジタル放送「ワンセグ」を安定受信できるエリアも大幅に拡大すると見込まれています。移転に伴いほとんどの世帯では従来通り良好に受信でき、ごく一部の世帯で受信対策が必要になる場合もあるとの発表でした。しかし実際は、昨年12月から今年3月上旬までに6万9千件以上の問合せがあり、そのうち約2万5千件で受信対策が必要と判断されました。

電波の送信場所が変わることにより、受信する電波のレベルが上昇もしくは低下することが原因でテレビが映らない可能性があります。東京タワーや東京スカイツリーからの距離が近ければアンテナの向きを調整しなければならない場合や、新たに建造物の陰に入ってしまう場合も考えられます。受信アンテナの向きを変えるか受信した信号を増幅するブースターの調整などが必要になります。アンテナで受信していないケーブルテレビや通信系テレビ(光ファイバーなど)は各社で対応しますので受信対策は必要ありません。

移転が原因で映らない場合は放送事業者が適切な対応を行います。戸建てだけでなく住居用の賃貸マンション、アパートなど共同住宅も無償で行ってもらえますが、事業用のテナントビルは原則、費用がかかるとの話ですのでそこは注意が必要です。今回の移転でかかる対策費はおよそ100億円とみられ、NHKと民放5社で負担するそうです。

現在の東京タワーから送信される電波と東京スカイツリーからの電波の両方を受信できるようにすることは可能とのことで、ほとんどの世帯は必要な工事を行っていると思いますが、移転した後にテレビが映らない場合はすぐにコールセンターに問合せ、調整を図る必要があります。

テレビ局は災害時などのため東京タワーの設備はそのまま残し、ラジオ局の一部はコストの面で東京タワーからの発信を続けるところもあるそうです。

テレビに関してはBSなど衛星放送やCATVの誕生、アナログ放送から地上デジタル放送への移行の対応に追われましたが、今回の電波塔の移転で当面は落ち着くと思われます。

※移転は延期される場合があります。

最近の賃貸事情-Vol47 繁忙期に向けて

昨今の賃貸事情は賃料の下落、敷金礼金の低下が進み、さらに空室率の上昇と、オーナー様にとっては大変厳しい情勢となっています。築浅物件や新築でも立地や仕様により苦戦を強いられることがあり、既存物件ではより工夫をしていかなければ厳しい競争に勝つことはできず、貸す側は繁忙期にひと部屋でも多く成約に結びつけようと様々な戦略を考えています。

その戦略の1つとして①入居日をある程度猶予することが挙げられます。学生や新社会人は3月あるいは4月の入居希望が多く、「早く決めたいが住んでいない間の賃料は払いたくない」と考えています。ワンルームや1Kなどシングルタイプは②フリーレント(一定期間の家賃を免除する)の活用が効果的です。また、早期に契約締結することで空き予定物件との競合性が減り、キャンセルも回避できます。

戦略の3つ目は③早めの退去を促すことです。3月中に入居できる物件と4月に入居できる物件では反響数に差が出ます。解約予告日数を調整し解約者に早めの引越しを促して繁忙期に入居可能な状態にするのです。急な転勤で引越しする方もいるため早めに入居可能な状態にしておくことが大切。④入替の際のリフォーム工事を合理的に行い、且つ短縮することも重要です。

5つ目として⑤賃料の値下げ幅を確定しておくことが挙げられます。学生の中には1日だけ上京し、その日のうちに決める方も多く、条件交渉が入った場合早急に結論を出さないと他の物件に流れてしまいます。特に最近は当然のように条件交渉が入りますので、それを前提として詳細に募集条件や入居者条件を考えておくことが得策です。

近隣の供給状況、新しくできる施設、駐車場の空きなどの⑥情報収集を行う必要もあります。保証人を立てられない、または立てたくない申込人も増えているため、妥当な料金で保証内容も良く、財務内容がしっかりとした⑦保証人代行会社を用意することも大事です。トップページの「みなさんこんにちは」のところでも触れましたが⑧カスタマイズ賃貸は今、賃貸業界のトレンドです。⑨植栽をエントランスや廊下に設置することも好印象で成約率が向上します。⑩成約プレゼント(家電や商品券、自転車など)の実施が盛んに行われていますが、そういうモノで契約した入居者は入居期間が短いということを聞きます。

部屋そのものを気に入って住み始めた入居者は部屋を大切に使い、長く住み続けます。また入居後のクレームや要望への対応の良さも居住期間を長くします。特にこの時期は初めて一人暮らしをする方も多く不安なことがたくさんありますので、ソフト面の対応がより大切ではないでしょうか。将来的には、あのオーナーの物件、あの管理会社の物件に住みたいという基準での部屋探しも出てくるかもしれません。

下の図「絶対条件と考える設備」は昨年後期に行われたアンケート結果ですが、上位は既に多くの物件に備わりつつありますので、プラスαの価値を考えなくてはなりません。住む人が満足して長く住み続けるような管理を目指し、これからもオーナー様の賃貸経営のお手伝いを行って参ります。

最近の賃貸事情-Vol46 賃料滞納者と生活保護受給者の増加

賃貸業界ではここ数年、景気の悪化や完全失業率の高水準化などの時代背景により賃料滞納の問題が深刻化しています。保証人に当たる親の世代が定年退職期に移ってきており、滞納賃料を請求してもすぐに一括では払えないなど回収作業が難航し、弁護士に相談したり裁判に至るケースも増えています。入居申込内容も契約社員や派遣社員、フリーター、特に最近は生活保護受給者(以下、受給者といいます)が多くなってきています。

受給者は2012年5月時点では210万人を超え過去最高数になりました(厚生労働省)。人口に対する割合(生活保護受給率)は全国平均で1.63%と10年前の2倍以上、受給率が最も高い大阪府は3.38%、低い富山県では0.32%と地域により大きな開きが出てきています。東京都は2.13%、100人に2人以上が受給者で全国的には高水準。今後、受給者の賃貸物件に対する需要は確実に伸びていくと思われますが、空室が多い昨今の状況を考えると受給者を受け入れることは賃貸経営のためには必要であり、社会的にも受け入れが望まれています。また、まれに貸主や管理会社が入居者と相談した上で生活保護の受給申請を提案するケースもあり、生活保護制度は賃貸借と密接な関係にあるのです。

受給者は定期的に役所の審査(年に数回は訪問し近況を確認)があり、賃金収入が安定するまで給付を受けることができるため、貸す側からすれば安定した収入が得られます。しかし問題点もあります。賃料の代理納付(役所からの直接入金)を認めていない自治体が多く存在するため、住宅扶助(賃料が支給される)を受けているにもかかわらず、それを借金の返済に充ててしまい滞納してしまうことです。本人の属性の問題ではありますが、支給システム自体も改善が必要です。役所が貸主に賃料を直接振込む制度になることを期待します。

また、受給者に限ったことではありませんが、賃料滞納以外に規則やマナー違反、トラブルを起こす身勝手な入居者が増えている問題、さらに高齢者などの孤独死問題などのリスクも考えていく必要があります。

滞納者に対する有効な対策として差押えがあります。裁判所の判決を得る、または支払督促手続きを行い異議が出なければ差押えが可能になります。差押えは不動産や車、預金口座などが対象ですが、会社員であれば給料の差押えも可能です。給料額により制限(例えば1/4までなど)はありますが滞納賃料を回収する有効な手段です。

しかし、滞納者への一番有効な手段は早期対応。保証人も含め早期に連絡をとり対応することが最も重要です。滞納額が増えれば増えるほど正常に戻すのは困難であり、たとえ差押え判決が出ても回収できないケースもあります。

滞納を未然に防ぐため入居審査をきちんと且つ丁寧に行い、滞納者予備軍を見極めることが大切だと考えます。

最近の賃貸事情-Vol45 外国人在留管理制度の開始

2012年7月9日に在留管理制度が施行されたことに伴い、外国人登録制度が廃止され、在留カードによる管理へと変わりました。

従来は、法務省での入管・更新時の管理と市区町村への登録の二本立てで管理が行われていましたが、情報を把握しきれず、罰則規定を執行できないこともあり、結局は本人による申請を待つしかないのが実情でした。その結果、①登録証明書の所在地に誰も住んでいない ②一時帰国を把握できない ③不法滞在でも登録証明書が発行されてしまう などの問題がありました。

新制度では、入国時にICチップ入りの「在留カード」が交付され、法務省で一括管理されます。在留外国人には、カードの常時携帯と、記載事項(氏名、居住地、就労先など)に変更がある場合の届出が義務づけられます。これにより適法に在留している、いわゆる優良外国人を正確に把握できるようになるため、最長在留期間が3年から5年に延長されることになりました。なお、賃貸業界では一般的に、外国人に部屋を貸す場合は外国人登録証明書のコピーの提出を義務づけていましたが、今後は在留カードの提示をお願いすることになります。

昨年末の外国人登録者数は2,078,480人(別表1)、島国日本にしてはかなりの割合であることに改めて驚きを感じます。うち、都内には20%の約40万人が居住しています。国別には中国、韓国・朝鮮、ブラジル、フィリピン、ペルー、アメリカの順です。不法残留者数は2012年の1月1日現在67,065人で、総登録の3.2%を占めます。在留資格の中で最も多いのは、滞在期間が過ぎても帰らない「短期滞在」(別表2)ですが、登録数のピークであった2008年に比べると減少傾向にあります。しばらくは登録証明書から在留カードへの移行時期にあたり、不法残留者が激減することはないと思われます。しかし、今後は在留カードが雇用や賃貸契約の有力な判断材料となることでしょう。

日本は少子化の時代に入り、その対策のため外国人の受け入れが増えていくことが予想されます(今回はそのための法改正であるという見方もあります)。必然的に、賃貸住宅の需要も増加していきますので、シェアハウスや家具付の部屋、カスタマイズができる物件など、外国人も視野に入れた賃貸住宅作りを考えてゆく必要があるのではないでしょうか。

最近の賃貸事情-Vol44 老朽化家屋問題

街を歩いていると、ところどころに老朽化した建物が存在し、中には長い間誰も住んでいない古い家が放置されているものもありますが、このような空き家が今、問題視されています。

長期間メンテナンスされていない古い建物は地震による崩壊や景観の悪化、悪臭の原因になるなど防災や防犯面の問題が指摘されており、各自治体は対策を迫られています。実際、老朽化した建物の外壁が崩れて歩道に落下するなどの事故も起こっています。

空き家問題は人口の減少が深刻な地方の問題として位置づけられていましたが、首都圏でも若い世帯は新しい住宅を取得し、狭くて古い家には戻らずにそのまま放置しているケースが増えています。

東京都足立区や埼玉県所沢市、千葉県柏市では老朽化した建物の所有者に修繕や解体を求める条例を制定しました。崩壊などの恐れがある建物を特定し、特に危険度が高いものに対しては登記簿の確認や周辺住民へ聞き込みを行って所有者を割り出しています。建物の修繕や樹木の伐採などを求めるわけですが、解体を要請することもあります。

この条例の問題点は罰則規定を設けることが難しいため強制力に欠けることで、現時点では対応しない所有者を公表するに留まります。また、修理解体の費用負担や、住宅を解体撤去すると土地の固定資産税や都市計画税が上がってしまうことも課題となっています。住宅が建っている場合は住宅用地の軽減措置が受けられ、200㎡以下であれば固定資産税は1/6、都市計画税は1/3になります。住宅を解体撤去すれば建物の固定資産税等はなくなりますが、元々老朽化住宅は建物評価額が低いので、土地の固定資産税が上がった分と差し引きしても、結果として税負担が大きくなってしまいます。足立区では解体した場合に所有者へ最大100万円の助成が既に決定していますが、このような自治体が増えることを期待します。

日本の住宅の平均寿命は概ね40年前後といわれており、アメリカは100年前後、イギリスはさらに長いという状況があります。日本の住宅寿命が短い原因は生活様式の変化や住宅設備の向上などが挙げられますが、建物の価値観や国民性にも起因していると思います。しかし、定期的なメンテナンスとリフォームを行うことで日本の住宅の寿命を長くすることは可能です。

もともと一戸建ては住宅業界で潜在的な需要があります。別表は国土交通省の調査資料ですが、一戸建てに住みたいという要望は大変多く、賃貸市場でも一戸建ての需要はかなり高いのです。

大手ハウスメーカーでは一戸建てや二世帯住宅の使われていない一世帯分をリフォームして賃貸利用する提案をしているようです。用途はファミリー向け、シェアハウス、ギャラリーや教室等様々で、一戸建て住宅の賃貸化とシェアハウス化が促進されています。

建物は単に古いという理由だけで解体するのではなく再生も考える必要があります。危険度が高いものは解体、改修して使用できるものや価値のあるものは耐震性を強化した上で市場に出せば需要と供給のバランスが取れ、地域社会にもメリットがあります。

今あるものを有効活用し、官民が一体となって、地域と連携をとりながら進めることが大切と考えます。

最近の賃貸事情-Vol43 賃貸住宅管理業者の登録制度

  昨年12月施行された「賃貸住宅管理業者の登録制度」についてお話しします。

  不動産会社を規制する法律には「不動産取引仲介のための宅地建物取引業法」「分譲マンションを管理するためのマンション管理の適正化の推進に関する法律」などがあります。今回施行されたのは従来規制対象ではなかった賃貸住宅管理業者のための登録制度です。賃貸住宅は住宅ストックの1/4以上(約1,340万戸)を占め、その大半は個人所有です。そしてその約8割の所有者が管理会社に委託していると言われています。つまり、賃貸アパートやマンションの多くが管理会社という事業者によって管理運営されているのです。敷金の返還や滞納者の対応など、賃貸物件にまつわる問題が増えている状況を踏まえ、トラブルを減少させる目的で管理会社の業務に一定の規則を定めたのが「賃貸住宅管理業者登録制度」です。

  本制度の対象は「管理事務」を業としている場合であり、「賃貸人から委託を受けて管理する場合」と「賃貸住宅を転貸するサブリース業者」、さらに「毎月の家賃を代行して集金し保証している保証人代行会社」も含まれます。所有者が直接管理を行なう場合と、建物や設備の保守・点検業務のみの場合は対象外となります。また、居住用が前提となり、事務所ビルや駐車場、店舗併用住宅の店舗部分については対象外です。

  本制度に登録した業者に課される義務は下図のとおりです。

  また、国土交通省へ年1度の報告義務もあります。具体的には管理受託の契約件数、棟数と戸数、サブリース(転貸借)の契約件数や棟数と戸数、年間の受託金額(管理報酬)、財産(預かり金)の分別管理等の状況などです。これらは国土交通省が適切に把握するほか、閲覧可能とすることにより取引関係者が管理業者を適切に選択・判断できるようにするためのもので、登録業者の経営規模や経営状況の審査が目的ではありません。あくまで賃貸人や賃借人が賃貸住宅や管理会社選択の参考にするのが目的で、国交省が特定の管理方法を求めるものではありません。その他、入金家賃を賃貸人ごとに勘定を明確に区分して管理しているか、預かった家賃を賃貸人に送金されるまで適切に分別して管理されているかを記載する必要があります。貸主ごとに専用口座を設けたり送金額を報告する必要はありません。

  全体的には昨今の賃借人保護の流れを前提にした内容と言えますが、12月の申請分が登録されるのは4月以降の予定であり、実際に運用されるまでは不明瞭な部分が多々残ります。また本制度は任意の登録制度であり、登録するかどうかは各管理会社の判断に委ねられ、登録しなくても管理業務を営むことは可能です。賃貸住宅の管理に関しては現在特段の法規制がないことや事業者の負担に配慮した結果、任意の登録という制度となりました。登録が特別の保証を与えるものではありませんが、「業務及び財産の分別管理等の状況」が公表されることにより事業者の信用が問われることになります。

  今後、賃貸住宅市場の供給過剰に伴って競争がますます激化し、必然的に質の良い賃貸管理が求められます。「賃貸住宅管理業者登録制度」の開設は、オーナー様にとっては管理会社選びの際の参考にすることができ、部屋を探す消費者にとっては管理会社を選別した上で賃貸物件を選ぶ際の目安になることが期待されています。

【賃貸住宅管理業務処理準則(抜粋)】
●賃貸オーナーおよび借主に対する管理内容についての重要事項説明と書面交付
●賃貸借契約更新時の書面交付
●賃貸借終了時の敷金精算額についての書面交付(原状回復費用の算定基準や金額の内訳などを書面で交付する必要があります)
●工事代などの金銭を借主から受領したときの賃貸オーナーに対する通知
●賃貸人への管理事務に関する定期報告

最近の賃貸事情-Vol42 更新料の有効判決と原状回復のガイドライン改訂について

今年7月に最高裁で出された「更新料の有効判決」と8月に国土交通省から出された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の再改訂についてお話します。

まずは更新料の有効判決ですが、貸主側の主張を100%認めた判決となり、4人の裁判官全員一致で有効となりました。今回の判決は大阪高裁で判断が分かれた3件の訴訟(うち2件は無効、1件は有効)についてのものですが、更新料を扱った最高裁の判例として実務に与える影響は大きいと思われます。

判決のポイントは2つ。1つ目は更新料も貸主の収益の一部であり、賃料の補充・前払い・賃貸借を継続するための対価と解せられ、更新料を徴収することの合理性・妥当性が認められたこと。2つ目は更新料が契約書に記載されていれば更新料が特段に高額すぎる場合でない限り消費者契約法10条の信義則違反は認められず、更新料条項は無効にはならないこと。高額の基準はというと、今回の案件では賃料45,000円で更新料が毎年10万円など、すべて消費者契約法には違反しないとされました。少なくとも関東で慣行とされている2年に1度、1ヶ月分程度の更新料は徴収しても消費者契約法違反になることはありません。

最高裁は「更新料条項が賃貸借契約書に記載され、貸主と借主との間に更新料の支払いに関する明確な合意が成立している場合」を前提としています。従って今後の対応としては、更新料があることを明確にして募集を行い、重要事項説明書にも明確に記載することが必要です。また、裁判官は、借主は賃貸物件を総合的に検討・選択できる状態にあり、貸主と借主の情報量に大きな差はないと指摘しています。

更新料有効判決や2件の敷引き有効判決で胸を撫で下ろしたオーナー様も多いと思いますが、需要と供給の問題があります。全国の民間賃貸住宅は1,200万戸を超え、2010年の空室率は全国で23.07%、東京でも16.05%と高水準にあります(全国賃貸住宅新聞社調べ)。一部の人気物件を除いては借り手が優位な状況であることは否めません。将来的に更新料を徴収できるかどうかは不確定です。その他、礼金や共益費、ルームクリーニング代なども問題提起されていくと考えられます。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂については柱が2つあります。1つ目は賃貸借契約書に添付する別表の追加。別表には「工事負担の分担表」や「工事の目安単価」などが盛込まれています。2つ目は「残存価値割合の変更」。償却期間(6年~8年)経過後、今までは残存価値10%の請求は認められていましたが、改訂により残存価値1円まで償却されることになり、修繕費を借主に負担させることがより難しくなっています。しかし、借主は善良なる管理者として注意を払って使用する義務を負っています。綺麗に使用した借主と悪質な使い方をした借主との工事負担の割合が同じというのは理不尽さが残ります。また、仕様や設備の品質は向上しているにも拘らず償却期間が6年~8年と変わらないのは不自然という意見もあります。

ガイドラインは法的な強制力はありませんが、原状回復の考え方の指針になっているため、これを基準に借主の工事負担の範囲を決めなければなりません。貸主及び借主双方が納得するような基準と制度を考える必要がありそうです。

最近の賃貸事情-Vol41 震災後の住宅

震災後の地価の動向。今年の1月1日と4月1日の比較(国土交通省調べ)では地価が上昇した地区は全146地区中2区のみで、前回調査16地区の上昇から減少しており、下落地区は前回の77地区から98地区に増加しています。震災の影響で住宅需要が低迷し土地取引が減少したためですが、ゴールデンウィーク以降は需要が高まってきており、まもなく落ち込みは一段落すると見られています。購入者意欲が低下している理由は、津波で家が流され、瓦礫の山となった映像がニュースで放送され、多額のローンを組んで購入するリスクの大きさをあらためて思い知らされたためと言われています。しばらくは賃貸派が増える傾向が続くのではないでしょうか。

次に住まいの安全意識についての業界アンケートの結果です。「安全・安心に住まうことに対して意識が高まった」が9割を占めます。そのトップは「耐震性能などの建物構造」の91%、次に「防災対策(防災設備や簡易トイレ設置など)」で56%でした。1981年6月に耐震基準が法改正されて、それ以前の物件と比べると耐震性能が大きく変化しました。賃貸住宅においても築年数が古い物件の耐震補強や改修工事など耐震対策を考える方が増加しています。また、アパートよりマンション、木造より鉄骨、鉄骨よりRC造、また、1階が広いスペース(店舗や駐車場)になっていない物件などを優先して選ぶ傾向は強くなっています。

その他、高層マンションは揺れが大きい、停電時のエレベーター停止、避難に時間がかかる、断水になれば復旧に時間がかかるなど震災後はやや人気に陰りが見え始めています。埋立地など液状化現象のリスクが高い地域や津波の影響を受けやすい海岸地域の人気も下降しており、徒歩での帰宅が困難な郊外物件も需要が下がり気味です。逆に地盤が安定している西多摩地区の八王子や調布などは住宅の販売戸数が伸びています。

被災したことを想定して家族や親族に近いエリアを選ぶ方もあります。震災後の引越理由で「実家に戻る」「国に帰る」このふたつはとても増えました。しかし現実は仕事の関係で引越しできなかった方も多いようですが…。都心部や職場から自転車か徒歩で帰れる地域の人気も高まりそうです。近隣に避難所となる学校や公民館などがあるか調べる方も増えました。立地に関しては動かせない事実ですが、今後の不動産市場は立地選別がより厳しくなると予想されます。

地震による停電や電力不足の影響を受け、LEDや太陽光発電がかなりの注目を浴びるようになりました。太陽光発電については2002年度の発電量は20万kW弱、2008年度は20万kW強とほとんど変化はありませんでしたが、2009年度は補助金などの効果もあり60万kW強と大幅増となっています。需要が増えることで設置費用の単価も下がり、また、電気の買取制度もあるため導入しやすくなります。節電のため電球をLEDに変える方が増えていますが、太陽光発電はまだまだ設置費用が高価であるため導入に足踏みをしている方も多いようです。

共用部の電気代に充当、貸室の電気代を軽減、非常時に電気を供給できるなど、今後、太陽光発電及び蓄電は賃貸経営という観点から見た場合、他物件との差別化という意味でより注目されるようになっていくと考えられます。