最近の賃貸事情-Vol.34 更新料の判例
更新料の有効性が問われた訴訟が各地でなされております。過去ほとんどが「更新料は有効」の判決でしたが、今年7月の京都地裁、8月の大阪高裁では消費者契約法との関係で無効の判決が下りました。「結果情報」がすべてと思い込んでしまうことに注意を払う必要があります。一部のマスコミもまたそれを煽ります。今回の判決はひとつの事例についてのみ言及しているのであって他の契約には無関係。しかし、「更新料は払わなくてよくなったのですね」と当然のように言ってくる借主が既に現れており、今後も増えてゆくと思われ、あたかも法律が出来たかのように誤解している人が多いのも事実です。そもそも関西圏では更新料がないことも多く、この裁判での更新料は2ヶ月であり、且つ退去時の敷金精算にもトラブルがあったようです。首都圏では1年で更新料2ヶ月の契約はほとんど存在しません。また、更新料に関することだけでなく、入居中の対応も含めて貸主や管理会社と感情的なもつれがあったと予想できます。
今回の裁判のポイントは更新料の法的性質とされてきた「更新拒絶権放棄の対価」「賃料の補充の性質」が否定されたことです。更新料自体の意味を見出せない結果、不当なものとなり無効という結論に至ったのです。「1年毎に2ヶ月分は賃料に対してかなり高額である」「更新料を設定することで家賃を一見少なく見せ借主を誘引している」「大家に比べ借地借家法などの情報力に乏しい借主とは対等な取引であったか疑問」と裁判官は言及しています。
貸主側は最高裁判所へ上告するとのことですが、その結果は1年以上先。この間はやや混乱が予想されます。契約中の借主からは更新料の支払いの渋り、契約予定の場合は更新料条項の削除要請、解約済の場合は過去に支払った更新料の返還請求などが考えられます。
慣習等により地域的な違いはありますが、契約金は元来、賃貸収支を賃料だけでなく更新料も収入と見込んで計算し運営しています。もし更新料がないのであれば貸主はその分を賃料に加算していたでしょう。借主は契約当初から更新料2ヶ月を承知して入居したのです。もし契約条件が不服なら他の物件を自由に選択することも出来たはず。条件を納得して契約し、後から無効だ、違法だとの主張は、たとえ民事裁判で認められても人としての信用は失うことになります。
現時点での対応策は、契約前にしっかりと説明を行うこと、高額と受け取られない更新料の金額設定、普段から貸主と借主との信頼関係を築いておく、賃貸市場に沿った条件にしていくことが必要です。
また、最近、戦略的な理由によって礼金や更新料がある物件とない物件が存在します。また、同一物件でありながら礼金・更新料ありの場合、賃料を低く、礼金・更新料ナシの場合、賃料を高めに設定し、そのいずれかを借主が選択できるものもあります。契約金(入居一時金)を少なくして引越しをし易くしようという試みですが、借主が契約期間中に支払う合計金額はほぼ同じです。
いずれの業界にも自由競争は必要と考えます。家賃、契約金、更新料、グレード、付帯設備、仕様、環境、これらすべてを総合的に判断し借主は条件に見合った住みたい部屋を自由に選ぶのです。
しかし、慣習や条件というだけでは認められなくなりつつある更新料について、今後は重要事項において徴収する目的(賃料の一部前払いなど)の説明義務が課せられるかもしれません。要するに更新料の定義付けが必要なのです。或いは、更新料そのものが賃貸条件から排除される可能性もあります。
大切なことは、ひとつの裁判のみに右往左往することなく、業界全体の動き、借主の意識、貸主側の対応、これらに対し総合的な判断を基に冷静に柔軟に対応していくことです。