コラム-Vol.32 こだわり

「かき揚げ」「板わさ」「だし巻き卵」にお銚子一本。〆にもり蕎麦一枚。蕎麦屋はその昔から食堂の元祖であり、酒呑みの原点でもある。今では「蕎麦屋で一杯」は粋な飲み方。

「三たて」とは「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」、これに「摘みたて」が加わると「四たて」という。最初に何もつけずにそばを一本、次に蕎麦にワサビをのせて数本すすり、それから蕎麦をつゆに3分の1程つけて一気にすすり、休まず食べきる。私は蕎麦についてさほど知識は無く、そば食いとは言えず単なる「そば好き」。

数年前の秋の日、長野の有名な「そば屋」を目指し4人で車を走らせた。その店の昼のオーダーストップは13時ということは知っていたし、時間内に到着できるものと確信していた。ある場所までは…。そのそば屋は山奥にあり、地図にもナビにも出ていないような細い道を通らなければならない。その最後の細い道に入るところが分からず…結局道に迷ってしまったのです。

着いたのが13:05、店に駆け込み「まだいいですか?」、当然「いいですよ!」という答えが返ってくると思い込んでいたところ、「すみません、終了しました」素っ気無い返事。「ここのそばを食べたくて、東京から来たんですけど…」自分でもいやらしいとは思ったけれど、空腹と欲望がプライドを上回り一言出てしまった。仕事なら更に粘るところが、考えてみれば一度の昼食に過ぎない。大人気ないことはやめて「わかりました」と言って店を後にした。

4人とも朝からずっと蕎麦腹、それを急にラーメンやヤキソバには変えられない。(誤解がないように付け加えておきますが、私は麺好きで普段はラーメンもヤキソバもうどんもスパゲッティもよく口にします。)

「どうする?」こういう時は一人でも反対者が出ると、そばに対するモチベーションは極端に下がるが、幸いにもみんなポジティブな人間だった。「戸隠に行こう!」…私が言った。

地図を見ると30~40分かかる。自分が言い出したものの、それまで空腹を保てるか心配だったが、どうにか目的地に到着。何軒ものそば屋が建ち並んでいた。どこに入ろうかとすこし迷いながら一番地味な構えの店に入ってみた。舞茸の天ぷらともり蕎麦をオーダー。「うまいほうだね」そこそこ満足していたが「せっかくここまで来たのだから」と食に貪欲な4人はもう一軒、次に一番立派な店構えのところへ。同じく舞茸の天ぷらともり蕎麦を口にする。2軒とも合格点。みやげ屋でそば笊を買い帰途に着いた。

蕎麦好きが転じ、サラリーマンから蕎麦屋を始める人もいますが、私は全くそういうタイプではないので、これからもずっと食べる側に徹したいと思います。コシのある十割の中太麺に辛めのつゆ、ワサビとネギは入れずに、蕎麦を半分つゆにつけて一気にすする。最後にワサビとネギをつゆに入れ蕎麦湯で割って呑む。これが私の?いや、そば好きのマニュアルです。