コラム-Vol38 昭和の中華料理店

以前からとても気になっているお店があった。決して普通ではないレトロな店構え。先日ようやくそこで食事ができた。

その方面に出かける時は常に意識をしていたが、この店で昼食にしようと思った時に限り休みだったり、他で食事した後に通ると暖簾が出ていたり、昨年はそれが続けて3回もあって「縁がないんだ」と大人気なく怒っている自分がいた。矛盾しているようだが、そのあまりにも商売っ気の無い殺風景な店構えのため、「本日休業」の看板を見てホッとした時もまたあった。その店は極端においしいかまずいか、どちらかだろうと考えていた。中華料理店なのに暖簾とシャッターと入り口の看板はブルー一色で、さらに看板には店名がない。暖簾には書いてあるようだが風でめくり上がって読めない。サッシは曇りガラスのため店内の様子は全く伺えない。店構えだけで味を予想することには比較的自信があったのだけれど、もしまずければ今後の飲食店選びに自信喪失してしまう不安もあった。

店に着いたのは土曜日の12時丁度。店の前にはクルマが2台止まっていて、10人ほど座れる店内には3人の客がいた。予想した通りおばあちゃんが接客担当でおじいちゃんがシェフだった。店内に入ると入口正面には招き猫、左側の壁には熊手。右の壁には商売繁盛の額。まさに昔ながらのデコレーション。テーブルの上には醤油、ソース、酢、胡椒に七味、爪楊枝、割り箸、そして当然のようにアルミ製の灰皿も置いてあり、昭和という時間で止まっていた。私が子供のころに行ったような、当時のままの店内。磨り減って色が変わり果てたテーブル、破れた椅子はビニールテープで繕ってある。しかしその様子は古くてみすぼらしい感じはなく物を大事にしているように思えた。料理メニューは最低でも15年は書き換えていないと思われ、年季が入っている。そのことは壁に貼ってある料金表でも確認できた。

注文したラーメンは赤青黄色の渦巻き模様のラーメン丼で出されて最初の感激。さらに期待を膨らませスープを口に運ぶ。やはり味は昔ながらのしょうゆ味で2回目の感激。麺は細麺、具はのりとチャーシューが一枚ずつ、ほうれん草に鳴門、完璧な脇役が揃い踏みで3回目の感激。懲りすぎたものが多すぎるため飽き飽きしていた現代のラーメンに無いシンプルさに感動した。難を言えば好物のシナチクが入っていなかったことが唯一残念だった。

この店の定休日は日曜日だけとのこと。私はたまたま3回も続けて土曜日に行ってしまっていたのだ。そして、料金表に○○円ではなく○○縁と書かれた洒落に思わず微笑んでしまった。「ありがとう」と言うおばあちゃんの笑顔。満足して店を出る時、すでに私は次回のメニューを決めていた。