コラム-Vol39 船
「海は広いな~大きいな~」子供のころ、海を見ると夢は大きく膨らんだ。そして情報化社会の中で、よその国がずいぶんと近くなった。
中学のとき池で乗った二人乗り手漕ぎボート。これが初めての船、いや舟の経験。漕ぎ出してしばらくはオールの使い方が分からず相方に随分水をかけてしまったが、短時間でみるみる腕が上がったことを今でもはっきり覚えている。
大学生の時、伊豆七島へ行った東海汽船。2等船室で雑魚寝だったがとても楽しかった。社会人になり東京の晴海から北海道の苫小牧まで乗ったカーフェリー、愛車と一緒に北海道の旅。そして一番の思い出はグァム島から東京まで帰ってきた時の大型フェリー「日本丸」で、船酔いなど全くなかった私が、この船に乗ったときは、半日以上食事が喉を通らなかった。フィッシングボートで一日中トローリングをしていても、鎌倉小坪海岸から漁師の船に乗って鯵のビシ釣りに行ったときにも無かった船酔いに見舞われた。
グァム島から東京までは3日と半日。船の旅で視界に入るものは延々海と空、夜は星と月だけが続く。遠くに島が見えてくると訳もなく胸が踊り、去り行く島から視線を外すことができなかった。夜は宇宙を漂っているように星が近い。宇宙飛行士はこれに近い感覚なのだろうか。レストランのテーブルクロスは食器が滑り落ちないように水を湿らせてあり、食事をしていると、右の窓から海面だけが見える。船室のベッドは昼も夜も揺りかごのようだ。最初は揺れと体が喧嘩をしていたが時間を追うごとに慣れてきて、揺れを吸収する体になっていった。晴海の地に着いてしばらくは立っているのが困難だった。
船中で時間を持て余していると様々なことを考える。150年前に龍馬が見た黒船は現在に例えると、とてつもなく大きなUFOが飛んできたような驚きだっただろうか。今や世界には30万トン超の大型客船が造られ、アイススケートリンクやロッククライミングを備えた乗客7,000人乗りの豪華客船が航行している。そのスタッフは5,000人、地球上にあるものはほぼ揃っているらしい。医者や看護師も乗り合わせている、まさにひとつの街、いや島が海に浮いているようなもの。一度出航すると何ヶ月も旅をするこの船、おそらくルールやマナーもたくさんあるに違いないが、人間性の異なる人たちが乗り合わせていると、違反する人も出てくるだろう。ゴミはどう処理するのだろうか。トラブルの解決はどうするのか。警察や裁判所も必要かもしれない。
俯瞰で捉えると、地上から海洋の豪華客船を見るように、宇宙に長時間滞在した野口聡一さんの場合も高い空から地球を見て、銀河系を泳ぐ一隻の客船のように映ったのではないだろうか…。