コラム-Vol46 巡り合いと常総の赤いか

常磐道「谷和原インター」から10分ほど走ると水海道の街。現在は常総市といい、鬼怒川と小貝川に挟まれた平坦な田園地帯。そこで開催される花火大会を見るためにクルマを走らせた。会場の近くで広めの駐車場がある民家のインターホンを押した。しばらくすると奥様らしき人が現れ、駐車願いの件をご主人に確認している。電話を切ると笑顔で「いいですよ。学校の先輩なんですね。ただ家も今日は来客があるので端のほうに止めてください」。地元の高校出身だということを予め伝えておいたから私を先輩と呼んだのだ。

「では、花火が終わったら挨拶はせずに帰りますのでよろしくお願いします」そう言い残し私は会場へと向かった。観覧席の土手には色とりどりの屋台が並び、家族連れやカップルなどで賑わっていた。私は好物のやきそばをぶら下げながらパンフレットを買うために土手下の本部へ向かった。一部100円の値段は何年も変わっていない。小銭を出そうとジーンズの右ポケットに手を入れると50円玉1個と十円玉4個だけ。千円札を渡すと、販売スタッフは困った顔で「お釣りがないんですよ」「えっ、小銭を用意していないの?」と思っていると「私もパンフレットひとつ」と割り込んできた人が「私が払ってあげましょう。返してくれなんて言わないから大丈夫」。私たちのやりとりを聞いていたらしい。見ず知らずの人に払ってもらうわけにはいかないと遠慮したのだが、スタッフは100円玉をすでに受け取っていた。「ありがとうございます」と言ったときすでに彼は歩き始めていて私の声は人ごみでかき消されていた。後姿から警察官と知り驚いた。言葉の訛りで地元の人だと分かった。関係者ならパンフレットくらいは貰えると思うが、彼は自分の立場をわきまえていた。きっとパンフレット代金はどこかに寄付されるのだろう。

売り場を後にして土手を歩いていると私を呼ぶ声がした。花火写真家のGⅠさんだ。彼とは酒を飲んだり温泉へ行ったりした間柄だったが、ここ数年は会えていなかった。撮影の準備に忙しそうなので来月の再会を約束して別れた。

ここは一般の人には有名ではないが日本で一二を争う花火会社や花火師のすばらしい花火と演出があり、花火通の人たちには名の通った大会。したがって花火写真家のGIさんも何度もここを訪れているようだ。

今朝は豪雨と雷だったが、打ち揚げ中はちょうどいい風と空色になり、花火が終わったときに見えた空の星。日本屈指の花火と夜空の星の数に刺激され私はいつもより高揚していた。

帰り際に名物「赤いか」を買った。「煮いか」というのが正式名称だが私は見た目のその色合で子供の頃からそう呼んでいる。このエリア限定の屋台でそのうまさは言葉に表せない。

クルマを置かせていただいた駐車場の門扉に「ありがとうございます。助かりました。花火はやはりすばらしかった。また来年!」と書置きを残し、車内に赤いかの香りを漂わせながら国道294号線を南へと向かった。