コラム-Vol49 天童のそば処

ゴールデンウィークだというのに着いた日の蔵王温泉の気温は10度に満たなかった。この時期でも蔵王の一部ではまだスキーができるそうだ。

5年ぶりに会う友人は芋焼酎を片手にロープウェイ玄関口で出迎えてくれた。

お世話になる宿の風呂に入らず、よりうまい酒を飲むために広い露天風呂のある温泉まで歩いた。お互い根っからの酒好きだから。近況と懐かしい話を肴に飲み、一晩があっという間に過ぎてしまった。
翌日は比較的暖かかったが、バイクでは寒すぎるという友人の助言で観光名所の「御釜」には行かずに銀山温泉へと一人旅を続けた。

途中、山形市内に着いたのがお昼前。予定していた冷やしラーメンの店にはすでに行列ができていて、昼食は天童の蕎麦に変更。出羽桜酒造近くの「そば処」の看板と紺色の小綺麗な暖簾の老舗蕎麦屋を見つけた。専用駐車場も賑わいを見せていて私の期待は膨らんだ。

暖簾をくぐると店内は満席。しかし何故か客が全員焼きそばを食べている。客層もさまざまで、ここは蕎麦以上に焼きそばが人気なのだろうと思いながら壁に貼ってあるメニューを見て驚いた。「焼きそば(並)」「焼きそば(大盛)」「煮込み」の3つだけ。焼きそば専門店だったのだ。山形は蕎麦とともにラーメンは有名だが焼きそばは聞いたことがない。店構えはどう見ても日本蕎麦屋の筈がと思いつつ焼きそばと煮込みを注文した。横手焼きそばは目玉焼きと福神漬け、富士宮焼きそばは肉かすなど特徴があるが、ここの焼きそばは薄焼き卵とハムの千切りが入り味はやや薄め、青のりが沢山かかっていてお好みでソースを足す。見た目は私が子供のころ食べていた屋台の焼きそばのようで特別インパクトがあるわけではないが、ボリュームとシンプルな味の焼きそばには大いに満足した。

国道13号を右に曲がり、徳良湖の上を泳ぐ鯉のぼりの大群を見て、今日はこどもの日だったことに改めて気づく。それから北海道を思わせる道を走り、火の見やぐらと茅葺屋根の六沢地区を通り過ぎると目的の場所へ。
銀山温泉では5人ほどで満員になってしまう300円の公共浴場に入ってみた。素朴でやさしいお湯だった。

温泉街の奥にある白銀(しろがね)の滝は予想をはるかに超えた迫力。名声だけでなく、西の有馬、東の銀山といわれるようにここは長い歴史に裏打ちされている。
翌日、前日に食べ損ねた冷やしラーメンの店へ一番乗りで行き、一路山形道から東北自動車道を南下し帰途についた。

旅を振り返ると予想外の展開が一番思い出に残る。今回の旅も「そば処」の「焼きそば」が、やはり一番の出来事、いや今年一番の驚きだったかもしれない。