最近の賃貸事情-Vol37 賃借人居住安定確保に関する法律案

平成22年2月12日、国土交通省より、『賃貸住宅における賃借人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立行為の規制等に関する法律』が公表されました。新聞等では「家賃督促規制法」「追い出し屋規制法」などと略されることもありますが、内容は大きく3つに分かれます。

一番目は「家賃債務保証業の登録制度の創設」で、これまで法律の規制を受けなかった保証会社に登録を義務付け、契約時の書面交付や一定の財産要件の提示、帳簿の備え付けなどを定めています。少子高齢化や人間関係の希薄化等により保証会社を利用するケースが急激に増加している中で、保証会社の財政基盤の強化や経営の安定化を目的としています。

二番目は「家賃等弁済情報データベースの登録制度」で、家賃支払い状況をデータ化し賃貸住宅への入居手続きの円滑化・合理化並びに賃貸保証制度の健全な発展と普及に寄与することを目的とします。悪質滞納者の情報を共有できれば各保証会社が負う滞納リスクを軽減でき、保証委託料の引き下げにつながると期待がある一方、将来的に入居差別の原因になるのではと懸念する声も聞かれます。

三番目は「家賃等の悪質な取立行為の禁止」です。鍵交換や深夜の督促、動産の搬出等、トラブルが絶えなかったことから今回明確な規制基準が設けられました。具体的内容は現在審議中ですが「多人数で押しかけての荒々しい行為や暴力的な態度の禁止」「張り紙については事務的な連絡『家賃滞納について連絡下さい』程度は許容される」「督促に不適切な時間帯は夜22時から朝6時まで」などの意見が出ています。

今回の法案は、取立行為の規制対象が保証会社だけではなく家賃の取立を受託した管理会社、さらには賃貸人まで含まれる点にも注意を要し、オーナー様も家賃の取立方法によっては刑事上の罰則(2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金)を課せられることもあります。最近では理不尽な理由を付けて家賃を払わない滞納者も増えており、賃借人の優位性を盾にオーナー様や管理会社を脅迫するような例もあります。今回の家賃督促規制法はそういう悪質な借主まで保護してしまい、貸主側が法的弱者になってしまうと懸念されてもいます。現状では、滞納者に対する訴訟から明渡しまでの期間がとても長いため、精神的肉体的負担に加え、オーナー様の費用負担が重くなっています。悪質な取立を禁止すると同時に司法制度を短期間で円滑にできるように改善することも必要ではないでしょうか。また、倒産などやむを得ない理由によって滞納した入居者に対しては、国や行政が居住の確保や再就職の支援を行う等の対応も望まれています。

通常国会で法案可決まで至りませんでしたが参院では満場一致で可決されています。現在はまだ法律案の段階でありその内容については修正される可能性はありますが、秋の臨時国会や次回の通常国会では法制化される見通しです。今後の行方に注目するとともに、現在出されている法案を熟知し対策を考えておく必要があります。