最近の賃貸事情-Vol42 更新料の有効判決と原状回復のガイドライン改訂について

今年7月に最高裁で出された「更新料の有効判決」と8月に国土交通省から出された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の再改訂についてお話します。

まずは更新料の有効判決ですが、貸主側の主張を100%認めた判決となり、4人の裁判官全員一致で有効となりました。今回の判決は大阪高裁で判断が分かれた3件の訴訟(うち2件は無効、1件は有効)についてのものですが、更新料を扱った最高裁の判例として実務に与える影響は大きいと思われます。

判決のポイントは2つ。1つ目は更新料も貸主の収益の一部であり、賃料の補充・前払い・賃貸借を継続するための対価と解せられ、更新料を徴収することの合理性・妥当性が認められたこと。2つ目は更新料が契約書に記載されていれば更新料が特段に高額すぎる場合でない限り消費者契約法10条の信義則違反は認められず、更新料条項は無効にはならないこと。高額の基準はというと、今回の案件では賃料45,000円で更新料が毎年10万円など、すべて消費者契約法には違反しないとされました。少なくとも関東で慣行とされている2年に1度、1ヶ月分程度の更新料は徴収しても消費者契約法違反になることはありません。

最高裁は「更新料条項が賃貸借契約書に記載され、貸主と借主との間に更新料の支払いに関する明確な合意が成立している場合」を前提としています。従って今後の対応としては、更新料があることを明確にして募集を行い、重要事項説明書にも明確に記載することが必要です。また、裁判官は、借主は賃貸物件を総合的に検討・選択できる状態にあり、貸主と借主の情報量に大きな差はないと指摘しています。

更新料有効判決や2件の敷引き有効判決で胸を撫で下ろしたオーナー様も多いと思いますが、需要と供給の問題があります。全国の民間賃貸住宅は1,200万戸を超え、2010年の空室率は全国で23.07%、東京でも16.05%と高水準にあります(全国賃貸住宅新聞社調べ)。一部の人気物件を除いては借り手が優位な状況であることは否めません。将来的に更新料を徴収できるかどうかは不確定です。その他、礼金や共益費、ルームクリーニング代なども問題提起されていくと考えられます。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」再改訂については柱が2つあります。1つ目は賃貸借契約書に添付する別表の追加。別表には「工事負担の分担表」や「工事の目安単価」などが盛込まれています。2つ目は「残存価値割合の変更」。償却期間(6年~8年)経過後、今までは残存価値10%の請求は認められていましたが、改訂により残存価値1円まで償却されることになり、修繕費を借主に負担させることがより難しくなっています。しかし、借主は善良なる管理者として注意を払って使用する義務を負っています。綺麗に使用した借主と悪質な使い方をした借主との工事負担の割合が同じというのは理不尽さが残ります。また、仕様や設備の品質は向上しているにも拘らず償却期間が6年~8年と変わらないのは不自然という意見もあります。

ガイドラインは法的な強制力はありませんが、原状回復の考え方の指針になっているため、これを基準に借主の工事負担の範囲を決めなければなりません。貸主及び借主双方が納得するような基準と制度を考える必要がありそうです。