コラム-Vol.23 お田

おでんの「でん」は「田楽」の意味で、野菜やこんにゃくなどに薄い味を付けて長く煮たもの。入る具と味付けは地方によって異なるでしょう。子供の頃、晩ご飯まで空腹がガマン出来なくて、学校帰りによく食べました。そのせいか、当時「おでん」はおやつでありごはんのおかずではないと思っていて、晩ご飯におでんが出るとがっかりもしました。味付けがごはんには合わないだけなのかもしれませんが…。

今では冬の寒い日に、おでんをつまみながらイッパイやるのが楽しみで、数年前に新宿の屋台で常温の日本酒を呑みながらおでんをほうばっていました。屋台の周りは厚手のビニールで囲ってあったので真冬の割には寒さを感じませんでしたが、しばらくしてから店主に、「日本酒におでんのつゆを入れて飲むとうまいよ、お客さん」と勧められ、内心「そんなことないだろう」と思いましたが、飲食に貪欲の私はとりあえず試してみることにしました。普段はシンプルな食べ方、飲み方を好む私は、混ぜるということに反発しますが、この予想外にうまかった味に感銘を受け、それからしばらくは、おでん屋に行くたびにこの呑み方を楽しんでいました。

おでんの他に酒のつまみといえば、「煮込み」(に込み、煮こみ、にこみ)、「肉野菜炒め」(肉やさい炒め、にく野菜炒め、肉野菜いため)。「にく豆腐」「肉どうふ」「肉豆腐」みなさんはどの文字がいちばん美味そうに見えますか?「鯵の開き」「あじのひらき」「アジの開き」の場合はいかがでしょう?「鳥の唐揚げ」はうまそうだけれど「トリのカラアゲ」では注文する気になれませんよね。

「おでん」もひらがな3文字でないと、湯気が立ち、つゆがしみこんだ熱々のだいこんやこんにゃくが頭に浮かばないのではないでしょうか。「御田」と書いたらそれが何か分からないし、「お田」では酒の名前のようで、もし「オデン」と書いたら、おでんのイメージが沸かないし、うまそうにも思えません。

このことは、ビジュアルを重んじるために学習本に写真やイラストをたくさん載せ、また、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字を使い、言葉をまるで絵のように見ている日本人特有の感覚なのかもしれません。

おでんが大好きだという人は少ないが、嫌いだという人もいない。私にしても「何が何でも今日はおでんが食べたい!」とは思いませんが、飲み屋で「おでん」をすすめられると必ず頼んでしまいます。

冬の寒さに対抗できる「おでん」、いろいろな具が入り、見た目も華やか、つゆの染み具合で味も変化して行きます。冬の夜、もし屋台のおでんの具が一種類だけだったら、こんなに寂しいことはありませんよね。