最近の賃貸事情

最近の賃貸事情-Vol40 地震保険について

通常の火災保険では「地震による損壊」や「地震を原因とする火災」、「津波などの水害」や「がけ崩れなどの埋没時」に保険金は支払われません。地震火災費用保険金に加入していれば半焼以上の場合のみ火災保険契約金の5%または300万円のいずれか低い金額が支払われます。地震が原因の火災が火災保険の補償対象外となることは理解しづらく、また原因究明が難解なケースもあったようで、阪神淡路大震災では訴訟に発展した例がいくつかありました。最初の揺れから半日後に発生した火災の場合、地震保険に加入していなかったために保険金の支払いを断られて裁判をしましたが、結果は被災者側の敗訴となった事案もあります。

地震保険は単独加入ができません。地震保険に加入するためには必ず火災保険に入る必要があります。地震の発生はとても不確実であり、大地震の場合には莫大な被害が発生するため通常保険としては成立しにくいものです。そのため国と民間とが共同で運営する形をとっています。地震保険は各保険会社が独自に扱っていますが、どこの保険会社で加入しても原則、保険料や補償内容は一律です。国と各保険会社が協力してリスク分担する制度になっているのです。

補償内容は建物、家財ごとに火災保険金額の30%から50%に相当する金額で、建物は5,000万円、家財は1,000万円の限度額が定められています。査定は時価で計算され、1億円以上の建物でも最大5,000万円までしか地震保険を契約することはできません。また、自動車や高級品(貴金属・書画・骨董などで1個または一組が30万円以上のもの)は対象外となります。実際に支払われる金額は3区分(別表)に分かれ、全損の場合は保険金の全額、半損の場合は50%、一部損の場合は5%になり、支払われる保険金額に大きな違いが生じることに注意が必要です。

そもそも地震保険は被災者の生活の安定に寄与することを目的として発足され、民間保険会社が負う地震保険責任を政府が再保険していますので、大地震が発生し保険会社の経営が破綻した場合でも補償されます。但し、国としても無限に責任を負うことはできないため、1回の地震による支払保険金総額が5兆5,000億円を超える場合、契約ごとに支払われる保険金は削減されることがあると規定されています。この金額は関東大震災規模の巨大地震が発生しても保険金の支払いに支障のないように決定されているとのことです。また火災保険と地震保険、2つの保険金を同時に受け取ることはできません。

保険料は建物の構造と所在地により決定されます。地震の発生状況や頻度、活断層などから地震の危険度を算出し、また地震保険料率は過去500年間に発生した375の地震データを活用し算出されています。

免責事項としては地震発生から10日以上経過後に生じた損害、故意または重過失、法令違反による損害、地震の際の紛失や盗難の場合などです。また大規模地震対策特別措置法(現在は東海地震のみ対象)に基づく警戒宣言が発令されたときは、地震防災対策強化地域内に所在する建物または家財については地震保険の新規契約ができなくなります。

地震はいつ起きるか、どのような被害に拡大するかわかりません。もしもの時のために、地震保険付火災保険に加入することをお勧めします。

最近の賃貸事情-Vol39 空室対策

①賃料等募集条件の適正化②幅広い広告活動③物件の魅力アップ提案④入居者を長く居住させる(テナントリテンション)
などが空室対策として挙げられます。募集期間中は反響数、内見数に加え申込率(内見数に対する申込数の比率)を算出すると成約に向けての対策が見えてきます。

①募集条件の適正化
地域と専有面積に構造、間取り、築年数、設備仕様などが加味され個々の募集賃料が算出されますが、付近の供給状況や募集時期も査定に多大な影響を与えます。

最近は賃料値下げ交渉が多いため、募集賃料より成約賃料が下がることが多々あります。また、単身者は初期費用(敷金や礼金)の低さも強く求める傾向にあります。反響を得るためには適正な賃料設定が必要ですが、申込率については一概に高い方が良いとは言えません。賃料設定が低過ぎることの裏返しでもあるからです。

②広告活動
ユーザー向け業界向けを問わず、ネット検索では写真なしの物件は除外されてしまいますので外観、室内、水回り、付近の公園など、多く掲載することが大事です。特に築年数が古い物件は綺麗なリフォーム状況や、清潔な共用部分を視覚でアピールしなければなりません。また、写真の撮り方も重要です。

③競争力のある物件を演出する
競争力を付けるには経費をかけず募集条件を緩和させるのが効果的ですが、長期的には設備投資やリノベーションをして魅力的で競争力のある物件にすることが必要です。シングルタイプの場合「エアコン」「バス・トイレ別」「洗濯機置場」など当然の設備に加えプラスアルファが必要。コンセプトをしっかり持ち、魅力を引き出すことが大事です。

反響が少ないのは募集条件が適正でないことが多いのですが、反対に内見数が多いにもかかわらず申込に至らない場合も室内に何らかの問題を抱えています。また、室内がどんなに素晴らしくても自転車置場やゴミ置場など共用部分が整理されていないと申込には至りません。

ユーザーは期待して内見に挑みます。広告媒体に写真をたくさん掲載すると閲覧数が増えますが、写真掲載が裏目に出ることもあります。いずれにしても第一印象、特にエントランスを綺麗に保つことは絶対条件です。ここが汚れていると室内を見ずに帰ってしまう人もいます。案内時に照明を付けておくと好印象で、暗い部屋では前向きな考えになれず入居希望者を逃してしまいます。

④居住期間を長くする
シングルは4年、ファミリーは6年と言われていますが、リストラや倒産、初期費用ナシ物件の増加が影響し居住期間が短くなっています。賃料が上昇傾向時の入れ替りは歓迎しますが、現在のように賃料が上がらず、内装代も徴収できず、供給過多の時は入居者の居住年数を長くさせることが安定した賃貸経営に通じます。クレームや要望に対する早期レスポンスも長期居住には欠かせません。

一般的には募集開始から2ヶ月程度で成約に至るのが「適正な募集条件」と言われています。物件を客観的に捉え、多角的に見て、さまざまな提案をさせていただき早期成約を目指したいと考えております。

最近の賃貸事情-Vol38 めやす賃料表示制度について

財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が提唱している「めやす賃料」についてお話します。日管協は不動産会社1,167社が加盟する業界最大の団体です。「めやす賃料表示制度」は、礼金や更新料など地域ごとの商慣習の違いを超えて入居希望者が負担する実質的金額を明確化するための仕組みとして創設されました。めやす賃料とは具体的には賃料、共益費、敷引金、礼金、更新料を改定がないものと仮定して4年間賃借した場合の1ヶ月当たりの金額のことです。募集の際にめやす賃料を掲載することにより、消費者が他の物件と容易に比較できるようになります。借主と貸主の賃貸条件に対する理解不足によるトラブル防止のため業界で動き始めています。

貸主側としては、更新料に関する訴訟も気になるところです。大阪の高等裁判所で有効判決と無効判決が出され、最高裁の判決は今年度中にも出ると見られています。今のところ、事例ベースで悪質なケースのみを無効にするというのが有力ですが、更新料すべて無効という可能性も残っています。貸主にとって最も懸念されているのが更新料を遡って利子を付けて借主に返還するという過払い訴訟です。消費者金融の過払い金返還請求ビジネスで暗躍した法律事務所が更新料返還請求に目をつけ、回収した更新料から成功報酬を受取る料金体系を決めて営業を始めた法律事務所も既に現れています。更新料の次は礼金そして共益費、ルームクリーニング代と目標を定めているという話も耳にします。

賃貸物件のオーナーは消費者金融のような大企業ではなく、ほとんどが個人経営です。最近の市況悪化で経営に苦慮しているオーナーも多くいます。もし貸主が賃貸経営に行き詰まり、物件を良質な状態に維持、管理する余力を失えば、市場に出回る賃貸住宅の質が下がり、結果、借主にとっても悪影響が出てしまいます。

更新料はもともと地域の慣習であって、中期的にはすべて家賃に一本化するのが自然であると日管協の会長は話しています。めやす賃料表示はいずれ家賃に一本化されるのを睨んだ制度なのでしょう。通常の募集条件とは別にめやす賃料の項目を設けたポータルサイトも出始めました。一部の地域や管理会社では既に試しているところもありますが、今後は家賃の一本化または一時金の有無を消費者が選択できるような料金設定が広がるのではないかと考えられます。
めやす賃料に含まれない項目は仲介手数料や更新事務手数料、原状回復費用、鍵交換費用、町内会費、定額の設備利用料、保証会社への保証委託料、保険料などがあります。

賃貸借契約は継続的なものです。行政や法律においては将来予測できないこともあり、また、単純に一本化にできないものを今後どう補っていくか課題はありますが、少しずつ制度が動き出していることは確かです。

家賃の値上げが難しいなど借主の権利のみ厚く保護している借地借家法も変えていく必要があると思います。貸主借主がお互いを信頼し、契約の自由を尊重し、契約内容を守り、モラルと常識を持ち合わせ、慣習を大切にし、誠意を持って対応しなければどのような制度をつくってもトラブルは回避されません。

須藤建設は、常に業界動向に注目し、時代を見越して、随時オーナー様へ良い提案をして参りたいと考えております。

最近の賃貸事情-Vol37 賃借人居住安定確保に関する法律案

平成22年2月12日、国土交通省より、『賃貸住宅における賃借人の居住の安定確保を図るための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立行為の規制等に関する法律』が公表されました。新聞等では「家賃督促規制法」「追い出し屋規制法」などと略されることもありますが、内容は大きく3つに分かれます。

一番目は「家賃債務保証業の登録制度の創設」で、これまで法律の規制を受けなかった保証会社に登録を義務付け、契約時の書面交付や一定の財産要件の提示、帳簿の備え付けなどを定めています。少子高齢化や人間関係の希薄化等により保証会社を利用するケースが急激に増加している中で、保証会社の財政基盤の強化や経営の安定化を目的としています。

二番目は「家賃等弁済情報データベースの登録制度」で、家賃支払い状況をデータ化し賃貸住宅への入居手続きの円滑化・合理化並びに賃貸保証制度の健全な発展と普及に寄与することを目的とします。悪質滞納者の情報を共有できれば各保証会社が負う滞納リスクを軽減でき、保証委託料の引き下げにつながると期待がある一方、将来的に入居差別の原因になるのではと懸念する声も聞かれます。

三番目は「家賃等の悪質な取立行為の禁止」です。鍵交換や深夜の督促、動産の搬出等、トラブルが絶えなかったことから今回明確な規制基準が設けられました。具体的内容は現在審議中ですが「多人数で押しかけての荒々しい行為や暴力的な態度の禁止」「張り紙については事務的な連絡『家賃滞納について連絡下さい』程度は許容される」「督促に不適切な時間帯は夜22時から朝6時まで」などの意見が出ています。

今回の法案は、取立行為の規制対象が保証会社だけではなく家賃の取立を受託した管理会社、さらには賃貸人まで含まれる点にも注意を要し、オーナー様も家賃の取立方法によっては刑事上の罰則(2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金)を課せられることもあります。最近では理不尽な理由を付けて家賃を払わない滞納者も増えており、賃借人の優位性を盾にオーナー様や管理会社を脅迫するような例もあります。今回の家賃督促規制法はそういう悪質な借主まで保護してしまい、貸主側が法的弱者になってしまうと懸念されてもいます。現状では、滞納者に対する訴訟から明渡しまでの期間がとても長いため、精神的肉体的負担に加え、オーナー様の費用負担が重くなっています。悪質な取立を禁止すると同時に司法制度を短期間で円滑にできるように改善することも必要ではないでしょうか。また、倒産などやむを得ない理由によって滞納した入居者に対しては、国や行政が居住の確保や再就職の支援を行う等の対応も望まれています。

通常国会で法案可決まで至りませんでしたが参院では満場一致で可決されています。現在はまだ法律案の段階でありその内容については修正される可能性はありますが、秋の臨時国会や次回の通常国会では法制化される見通しです。今後の行方に注目するとともに、現在出されている法案を熟知し対策を考えておく必要があります。

最近の賃貸事情-Vol36 地上デジタル放送への移行 早期対応が望まれます!

地上デジタル放送は2006年12月から全国都道府県庁所在地で放送が開始されており、放送エリアは順次拡大されています。2011年7月24日に現行のアナログ放送の終了は周知の事実となっており、それ以降は地上デジタル放送の受信設備がなければテレビが見られなくなりますので、必ず対応しなければなりません。

地上デジタル放送のメリットは、視聴者がアンケートに応えるなど「送受信ができる点」や「ハイビジョン画質」を送信できることですが、一番の効果はアナログ放送で多大にあった電波障害の多くが解消されることです。アナログ放送で電波障害を受けていた建物は、他の施設の共同アンテナを利用する、ケーブルテレビを利用するなど、電波障害を与えた側が設備を整えていましたが、2011年7月25日以降はこれらの補償はなくなると思われます。しかし、極めて希ですが、アナログ放送が受信できた世帯がデジタル放送化により受信できないということもあるそうで、やはりこの場合も電波障害を与えている側が補償することになります。

デジタル放送を受信するには現在以下のような3つの方法があります。

①デジタル放送用の共同アンテナを設置
この方法は各部屋まで屋内配線にする必要があります。旧アンテナがUHFアンテナであればそのまま使用できる場合もありますが、アンテナの向きを変えたり、ブースター設置等が必要で、建物が古い場合には屋内配線や端子の取替えが必要です。また、BSデジタル放送を受信するにはパラボラアンテナが別途必要になります。

②ケーブルテレビで受信する方法
現在ケーブルテレビが引き込まれている場合は既にデジタル放送を見られることが多いですが、デジタル放送受信についての保証はしないようです。保証させるためにはケーブルテレビ会社との契約が必要です。初期工事代と毎月のランニングコストがかかりますが受信設備はケーブルテレビ会社側が負担しますので、トラブルの際もケーブルテレビ会社の対応となります。

③NTT光ファイバーによる対応
光ファイバーを導入している物件であればお申込は可能。但しこのケースも初期費用や入居中、空室を問わずランニングコストがかかります。屋内配線や端子、ブースターの設置が必要な場合もあります。不具合が生じればNTTが対応します。

賃貸住宅設備ランキングにおける地デジ視聴設備はシングルタイプで5位から2位へ、ファミリータイプでも7位から、こちらも2位に上がってきています。

集合住宅の地上デジタル放送対策は地域により差がでており、特に関東では全国に比べ遅れているとの発表がなされています。アパートやマンションの地デジへの改修工事依頼がこれから殺到するのではと懸念されています。資材や技術者が不足する可能性もあり、早めの対応が望ましいと考えます。

最近の賃貸事情-Vol35 2009年度上半期の賃貸事情

今回は本年度上半期(2009年4月~9月)の賃貸事情を振り返ってみます。

まずは『住まい探しのきっかけは?』(グラフ①参照)より、1位は契約更新で18.9%、2位は就職・転職で17.2%、以下結婚が16.8%、転勤が13.0%と続きます。これを間取り別に見るとシングルの1位も契約更新で23.5%、約4人に1人は更新時期に引越しを考えていることになります。カップルの場合1位は昨年同様結婚で44.2%、ファミリーの1位は就職・転職の23.9%で前回1位だった転勤は3位に下がっています。全体的に見て転職により住まいを変える人が増加傾向にあり、景気動向と共に当分はこの流れが続きそうです。当社の解約理由の集計を見ても、概ね上記と同様の結果が出ております。全体的には就職・転勤・結婚など、引越を要する場合が約7割を占めています。

次に『住まい探しで重視した条件は?』(グラフ②参照)より、1位は家賃で80.2%、以下間取り、交通アクセス、広さと続きます。間取り別に比較すると、シングルタイプでは広さの重視度、ファミリータイプでは駐車場ありの重視度、カップルタイプでは築年数の重視度が低下しており、家賃重視のため条件面を我慢する方が増えています。転職やリストラ、給料減額などの環境の変化が原因と考えられます。

続いて賃料改定について見ていきましょう。東京23区の賃料改定率は9月までの約1年間で低額賃料帯(20万円未満)は約▲2%、高額賃料帯(20万円以上)は約▲8%。高額賃料帯ほどではないが、低額賃料帯においても賃料下落は続いている状況です。23区の中でも千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区の5区は低額賃料帯で▲2.9%、高額賃料帯で▲8.5%と他の区に比べ下落率が顕著になっています。

最後にオフィスビルの空室状況です。11月の都心5区の空室率は7.98%で前月より0.22%増えて空室率増加が続いています。特に新築ビルの空室率は21.50%。これはオフィス縮小の動きがまだ続いていることが要因で、今後しばらく新規供給量は減少するものの、まだまだ厳しい状況が続くと思われます。事務所ビル(100坪以上)の平均坪単価は2008年12月の22,186円をピークに2009年11月末は19,306円と▲2,880円となっています。

昨年より高額賃料の物件やオフィス物件を中心に競争率が激化していましたが、その影響が低額賃料帯にまで波及しているのが現況となっています。ここ数ヶ月は賃貸の供給数は減っています。しかしそれ以上に需要の伸び悩みにより競争が激化することが予想できます。

厳しい状況が続きますが少しでも早く成約させる為に、地域と物件の特性及び需給関係、入居者ニーズを把握した上で、「募集条件の見直し」「設備や間取り変更の提案」「セキュリティ関係」等、物件毎にそれぞれ見合った提案をさせていただき、競争力を高めて行きたいと考えております。

最近の賃貸事情-Vol.34 更新料の判例

更新料の有効性が問われた訴訟が各地でなされております。過去ほとんどが「更新料は有効」の判決でしたが、今年7月の京都地裁、8月の大阪高裁では消費者契約法との関係で無効の判決が下りました。「結果情報」がすべてと思い込んでしまうことに注意を払う必要があります。一部のマスコミもまたそれを煽ります。今回の判決はひとつの事例についてのみ言及しているのであって他の契約には無関係。しかし、「更新料は払わなくてよくなったのですね」と当然のように言ってくる借主が既に現れており、今後も増えてゆくと思われ、あたかも法律が出来たかのように誤解している人が多いのも事実です。そもそも関西圏では更新料がないことも多く、この裁判での更新料は2ヶ月であり、且つ退去時の敷金精算にもトラブルがあったようです。首都圏では1年で更新料2ヶ月の契約はほとんど存在しません。また、更新料に関することだけでなく、入居中の対応も含めて貸主や管理会社と感情的なもつれがあったと予想できます。

今回の裁判のポイントは更新料の法的性質とされてきた「更新拒絶権放棄の対価」「賃料の補充の性質」が否定されたことです。更新料自体の意味を見出せない結果、不当なものとなり無効という結論に至ったのです。「1年毎に2ヶ月分は賃料に対してかなり高額である」「更新料を設定することで家賃を一見少なく見せ借主を誘引している」「大家に比べ借地借家法などの情報力に乏しい借主とは対等な取引であったか疑問」と裁判官は言及しています。

貸主側は最高裁判所へ上告するとのことですが、その結果は1年以上先。この間はやや混乱が予想されます。契約中の借主からは更新料の支払いの渋り、契約予定の場合は更新料条項の削除要請、解約済の場合は過去に支払った更新料の返還請求などが考えられます。

慣習等により地域的な違いはありますが、契約金は元来、賃貸収支を賃料だけでなく更新料も収入と見込んで計算し運営しています。もし更新料がないのであれば貸主はその分を賃料に加算していたでしょう。借主は契約当初から更新料2ヶ月を承知して入居したのです。もし契約条件が不服なら他の物件を自由に選択することも出来たはず。条件を納得して契約し、後から無効だ、違法だとの主張は、たとえ民事裁判で認められても人としての信用は失うことになります。

現時点での対応策は、契約前にしっかりと説明を行うこと、高額と受け取られない更新料の金額設定、普段から貸主と借主との信頼関係を築いておく、賃貸市場に沿った条件にしていくことが必要です。

また、最近、戦略的な理由によって礼金や更新料がある物件とない物件が存在します。また、同一物件でありながら礼金・更新料ありの場合、賃料を低く、礼金・更新料ナシの場合、賃料を高めに設定し、そのいずれかを借主が選択できるものもあります。契約金(入居一時金)を少なくして引越しをし易くしようという試みですが、借主が契約期間中に支払う合計金額はほぼ同じです。

いずれの業界にも自由競争は必要と考えます。家賃、契約金、更新料、グレード、付帯設備、仕様、環境、これらすべてを総合的に判断し借主は条件に見合った住みたい部屋を自由に選ぶのです。

しかし、慣習や条件というだけでは認められなくなりつつある更新料について、今後は重要事項において徴収する目的(賃料の一部前払いなど)の説明義務が課せられるかもしれません。要するに更新料の定義付けが必要なのです。或いは、更新料そのものが賃貸条件から排除される可能性もあります。

大切なことは、ひとつの裁判のみに右往左往することなく、業界全体の動き、借主の意識、貸主側の対応、これらに対し総合的な判断を基に冷静に柔軟に対応していくことです。

最近の賃貸事情-Vol.33 賃貸条件と相場

賃貸相場の動向についてお話します。今年に入り不況の煽りから引越しされる方が少なく、客付業務に苦戦を強いられる結果となっているため、募集条件を緩和している物件を多く見かけます。

今年3月度の首都圏募集データを見てみると、首都圏全体(マンション)の平均敷金は1.48ヶ月分で昨年の1.56ヶ月分から4.9%減少しました。礼金は平均0.89ヶ月分でこれも昨年の0.97ヶ月分から8.2%下落。賃料も東京都全体で昨年比マイナス3.8%となっています。都心部(マンション)の礼金は昨年の1.34ヶ月分から0.99ヶ月分まで減少。首都圏全体より都心部の下落幅が大きいことから、人気の高かった都心エリアから賃料が低いエリアに人が流れていることが伺えます。条件下落の原因は需要と供給の関係に依るところが大きいのですが、個々の取引を見てみると、貸主側からの緩和と借主側からの交渉との二通りがあります。どちらかと言うと、借主側からの交渉の方が多いようです。

4月度のデータを見てもこの傾向は続いており、都心エリア(マンション)の礼金は0.94ヶ月分と3月度よりさらに下がっています。敷金は礼金ほどではないものの昨年に比べ6.2%減少しています。これは募集条件での結果ですので、成約条件ではさらに低い数値が予想できます。当社の募集状況は上記に述べたほどの下落はありませんが、5月から8月はいわゆる引越オフシーズンですので、当社においても2割程度空室が増える傾向があります。

景気がやや落ち着きを見せたようですが、今後はファミリータイプの空き室が増えて競争が激しくなると予想しています。

賃料や一時金(敷金、礼金)を下げる、或いは「諸条件交渉可能」と表示し募集する場合にも注意が必要です。募集条件を下げることで入居申込者の内容が変わり、家賃滞納のリスクが高くなることがあるためです。入居者審査にはさらに慎重さが求められます。また、他の部屋との契約賃料に差が出てしまうことから、更新時に改定を申し出てくる借主に対してのデリケートな対応も要求されます。

過去に家賃滞納がなかった人でも解雇や派遣切り、或いは減給による滞納も増えています。このような状況がしばらく続くかと思われます。的確な募集条件の提示と入居者の選別、状況により保証会社を利用するなど、私たちはオーナー様にしっかり提案していかなければなりません。

今では賃貸に関する相場情報は借り手側も簡単に入手できます。「相場が下がっている。家賃を下げてくれ」と、相場情報を自分本位に解釈し値下げ交渉をしてくる方が増えていくことが予想できます。長期的な賃貸経営、時には空室期間を予想して、条件を下げて契約または更新することも必要です。しかし私たちは、「同じ部屋は二つとない」という不動産の特性と物件個々の特徴を把握し、また、たくさんのデータや情報を提示し且つ説明し、できるだけ好条件で賃貸できるよう努力して参りたいと思います。

最近の賃貸事情-Vol.32 貸家の経営

貸家は持主が住んでいた家を賃貸するケースがほとんどでしたが、ここ数年、最初から賃貸物件として一戸建を建てるケースが増えています。その理由は、普通借家契約では、期間限定特約を設けても実際に解約できるかどうか不安でしたが、定期借家契約ができたことで一定期間安心して賃貸できるようになったこと。また、最近ハウスメーカーも貸家経営を推奨しています。

一戸建は「借りる」というより「買う」という発想があったため貸家の供給は需要に比べ少ない状況でした。一戸建に住むためには購入するしかなかったのです。実際にデータを見てみても、一戸建の供給戸数は全賃貸物件の1~2%程度で、貸家は共同住宅より空室率も低いです。一戸建に限りませんが、価値観の変化と雇用不安により住宅ローンを避けたいと考える賃貸派が増加している事実もあり、買わずに借りる家がより脚光を浴びてきたわけです。

借りる側から見た貸家のメリットは
1.転勤や家族構成、収入に合わせて移ることができる 2.地価が下がっても損失がでないこと 3.騒音問題がない 4.庭がある 5.ペットが飼える 6.ガレージがある なども魅力です。家族が多い場合は同家賃であれば共同住宅より貸家を求める方が多いと思われます。

貸す側から見た貸家のメリットは
1.プランニングや建築が比較的容易 2.狭い敷地や変形敷地でも建築が可能 3.法律・規制や指導要綱も少ない 4.毎月のメンテナンス費用が不要 5.入居者からのクレームやトラブルが少ない 6.財産分与が行いやすく共同住宅に比べ売却も容易 7.最寄駅から多少遠くても需要が期待でき子供の学校の関係で長く住むことも予測できます。さらに、更地や駐車場に居住用建物を建てれば固定資産税や都市計画税、相続税評価額など税金面でもメリットがあります。共同住宅では売却したい時や相続が発生しそうな時など、かなりの時間と労力を要しますが一戸建を定期借家契約で賃貸すれば臨機応変な対応が可能です。

貸家経営のデメリットとしては概ね3つ。
1.面積が大きいため入替時のリフォーム費用が高額 2.樹木の剪定費用がかかる 3.高額家賃のため、空き家になったときのリスク(収入面)が大きいなど。

貸家を建てる際、注意しなければならない点があります。その地域に一戸建の需要があるかどうかが最も大切です。次に、住む家族を想定する(ターゲット)。ファミリーは環境を重視しますので近隣に幼稚園や学校、公園、役所、スーパーマーケットなどの有無もポイント。付帯設備もシングルタイプとは異なります。内外装については、ある程度コンセプトは必要ですが懲りすぎるのは賃貸に向きません。特に外装は地域にマッチしていなければなりません。オーナーの家族や親戚が、将来貸家に住む可能性を予想しておくことも必要です。普通借家契約で貸すか定期借家契約で貸すかは成約に影響します。

賃貸経営を行うには何よりも市場調査や将来の予測が不可欠になります。特に一戸建はリスク分散ができないため、プランニングはリスク分散が出来る共同住宅以上に重要です。地価が高いところでは保有及び投資コストに対して効果(収入)が見合わないケースもありますが、銀行金利や他の投資対象、税金対策まで充分に検討し貸家経営を計画する必要があります。

最近の賃貸事情-Vol.31 管理会社から見た賃貸物件(収益物件)の購入

アパート、マンション、一戸建を投資(収益物件)として購入する場合、利回りを重要視するのは当然のことです。しかし、他にもいくつか重要事項があり、特に中古共同住宅の場合、重要事項と注意点が多岐にわたります。

「建物管理状態の確認」は特に重要です。中でもアプローチ、建物玄関、メールボックスは、それがだらしなかったり汚れていたりすると、内覧者が室内を見る前に敬遠してしまいます。結果的に空室期間が長引きます。室内、いわゆる専有部分は入居者が管理するべきところなので、オーナーも管理会社も無断で立ち入ることはできないため、管理は入居者を信用する以外ありません。「建物は管理を買え」と言われるくらい建物メンテナンスは大事なポイントです。入居者は自分の居住している建物だからきれいにしておきたいと思っています。しかし共用部分(エントランス、廊下や階段)が汚れていると、汚してもいいものと勝手に判断してしまいます。清掃してきれいにしていれば、入居者はきれいに使い、ましてゴミを捨てたりしません。

次に「入居者層や入居態度」が重要です。これらを知りたい場合、ゴミ置場を見るのが有効です。ゴミの出し方は共同住宅の大事な基本的マナーのひとつです。また、現オーナーが管理に力を入れているかどうか、管理会社がどのように対応しているかも合わせて見ることができます。
その他、注意する点をいくつか挙げてみます。

●購入の目的
明確にすることが大事です。値上がりを待って売却益を期待するのか、利回りを優先するのかを決める。

●現在の所有者
現在の所有者が法人か個人か、また、どのくらいの期間所有しているかを確認する。

●予定所有期間
短期か長期か、自分がどのくらいの期間所有する予定か。

●築年数、構造規模、間取
空室リスクを考えるとき、これらを充分に検討しなければなりません。付近の需要と供給も把握しなければ、新築時は人気があっても古くなると空室が増えてしまうことが考えられます。

●現契約賃料が適正か
現契約が賃料上昇期、安定期、下降期のいずれか。新規契約や更新時期に賃料値下げが考えられます。

●エレベータの契約形態
POGかフルメンテナンスか。

●滞納者やトラブルの有無
現在及び過去のトラブル内容を確認する。

●近隣との関係
過去にトラブルはなかったか、また、現在の関係は良好か。

●諸設備の耐用年数と契約形態
エアコン・給湯器など、買取かリースか。

●配管などのメンテナンス
給排水管の洗浄を定期的に行っているか。見えない部分は特に注意が必要。

●外装、防水工事の時期
新築時から定期的に行っているか、また、前回行ったのはいつか。
短期所有目的の所有者は、利回りを良くするためにやや無理をしている傾向がありますので、購入する際は注意が必要です。その無理とは「賃料を高く設定」「退室後きちんとリフォームしない」「メンテナンスや大規模修繕を先送りする」「共用部分の清掃を減らす」などです。

すこし角度を変えて考えた場合、古い物件を安く購入して再生させ資産価値と収支をアップさせる方法があります。築年数も経過して外観見た目もよくない物件でも、見えないところのメンテナンスがしっかりしていれば、大規模修繕等をして再生させることによって価値が上がることがあります。

収益物件購入の際、チェック事項がたくさんありますが、すべて重要なことです。これらを怠ると購入後に、収支に大きな差が生まれ「こんなはずじゃなかった」ということになりかねません。事前に確認することがとても大切です。